2015年09月11日
奈生も座って

奈生が葵を送って、家へ向かうと、柊が帰って来るのが見えた。
「お帰り。」
「おう…」
だまったまま家へと歩く。
元気の無い2人だった。
「なんか、暗いなお前 。」柊が奈生に言った。
「柊ニイこそ、空気がよどんでいるけど。」奈生も沈んだ声で言う。
「…飲むか?」
「あ、買い置きのビールなかったかも…竜ニイおるんかな。」
「買って来るよ寰宇家庭。」
柊が来た道を引き返そうとした。
「あ、柊ニイ!いい考えがある。しかも飲み代無料。」
潤子が店の暖簾を降ろした。
カウンターでは津田がビールを飲んで、枝豆をつまんでいる。
「今日は暇やったわ。」
潤子がカウンターの中で片付けを始めた。
「着物、似合うな。きれいや。」
「え?やだ、今さら何を言うのよ。」
「ほんまにきれいやから言うただけ。」
「もう、飲みすぎと違う鑽石能量水?」
潤子がビール瓶を取ろうとした手を津田が掴んだ。
そしてその手にそっと唇を寄せた。
「やっと…やっと俺のところにきてくれたんや。きれいと褒めるくらい、いいやろう?」
「津田さん…」
「潤ちゃん…」
2人の顔が近づいた時。ガラガラと店の戸が開いた。
「な、奈生!」
潤子が驚いて津田からパッと離れた。
「…なんだか…お邪魔な雰囲気?」
そういう奈生の後ろから柊が中にズカズカと入った。
「なんやの?柊まで。」
「オカンが男とイチャイチャするのは、あまり見たいもんやないな。いいよ、ラブホでも津田さんちでも行って来いよ。店の戸締りしておくからさ。」
(ラブホ…)
柊の“ラブホ”という言葉に反応する奈生だった。
「アホ!何よ、用事?」
潤子が柊の頭をピシャッと叩いた。
「飲ませて。飲みたい気分なんや、俺達。」
そう言ってカウンターに座った柊の隣に、奈生も座ってため息をついた。
「おまえら葬式帰りかよ。暗い顔してやがるなあ。潤ちゃん、ビール出してやってくれ。俺のごちや。」
「お、さすが、そうこなくちゃ、お父様!」
奈生の言葉に一気に雰囲気が緩んだ。
Posted by kieihui at 11:11│Comments(0)
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